ひらひらと、花びらがいくつも空中を舞ってゆく。

ピンク、白、黄色、赤の花びらたちが、ちらちらと光を浴びながら、色鮮やかに私の視界を彩ってくれている。

耳には、祝福の声と無数の拍手の音。


まるで、どこか違う世界に迷い込んでしまったかのように、

私の目と耳から得られる情景が、私にはとても異常に見えていた。



「おめでとう。」


5つの音が、私の耳に何度も何度も滑り込んでくる。

一文字一文字はなんの意味ももたないのに、どうしてこの5文字が合わさると、私の思考をストップさせるのだろう。

まるで魔法みたいだ。溢れんばかりの拍手は、きっと魔法を起すための手法なのだ。

そんなことを頭の端に思いやりながら、私はあいかわらず、ぼんやりとその場に突っ立ていることしかできなかった。



きらきらと笑っている、誰よりも綺麗な姿をしたあの子。

その横で、優しそうに笑っている彼。


誰からも祝福された日だった。

女神様も、彼等を祝福するかのように雨だ雨だといっていた天気予報を覆して、こんなに晴れ晴れとした晴天に変えてしまったのだから。

どうして私だけ、素直に祝福することができないのだろう。



もっと、笑顔にならなきゃ。

彼等を祝福する、五文字の言葉を口にしなければ。

でも、どうしても口が動かなかった。動かせなかった。


置いていかれているみたいだ。

私は、なにも出来ずにただうずくまっているだけの迷い子のようだった。



目を合わせて、笑って微笑むことも。

照れながら手をつないだことも。

初めてキスをしたことも。


すべて、すべてもう過去のことなのに、私はすがりつくように記憶をあさっては、その思い出に浸っていた。

でも、もう彼はここにはいない。私の思い出の中の彼と、今目の前にいる彼はもう同じ人ではないかのように、

彼女だけに、彼女のためだけの優しい笑顔をしていた。


私はこれから先も、彼と彼女の幸せそうな姿を見るたびに、胸をきりきりさせながら、この島で暮らしていかなければならないのだろうか。

そう思うと、ひどく絶望的な気分になった。私だけ閉じ込められた記憶の淵で、延々とさまよわなければならないように思えた。


けれどもう、彼はこちらを振り向いてくれない。

彼が、私の方を見て、振り向いてくれさえすればいい。

そうすれば、私は少しは笑顔になれたかもしれない。



けれどきっと、彼はこちらを振り向かないだろう。




『おめでとう。』



心の中でつぶやいた言葉は、どんな言葉よりも汚くて、醜かった。

私は一度目をつむって、今度は声に出して言ってみようと息をちいさく吸った。




(そうすれば、少しは彼らを許せるかもしれない。)



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