「アカリさんは、チハヤのことどう思っているの?」



それは突然の質問だった。


いつものようにわたしが、キルシュ亭でお昼ご飯を食べようと思って、いつもと同じ席に座って、

注文をしようとしたときに、それを聞きにきたマイが突然そんなことを言い出したのだ。

今日のオススメランチを頼もうと思っていたわたしは、いきなりそんな質問をぶつけられて、

おもわずマイのほうをまじまじと見てしまった。


彼女の眼が、ひたとわたしを見つめていて、薄青色の瞳に映った小さなわたしは、あきらかに驚いていて、

ぽかんとした顔をしていた。



「ねぇ、どう思っているの?」


「どうって・・・。」


マイの強い口調に、わたしは濁した言葉しか出てこなかった。


いきなりすぎる。

わたしはただ、ここにお昼ご飯を食べにきただけなのだ。



「私は、チハヤが好きなの。」


マイはゆっくりと、ひとつひとつ海岸から拾い上げてきた貝殻を、

そっとわたしに見せてくれるかのように、言葉を紡いだ。

それは彼女にとってひどく大切な言葉のように聞こえた。


マイが好きだというだけで、わたしにはマイのチハヤに対する思いが、沁みるように感じられた。

それは、わたしが客観的に見てマイがチハヤを好きなんだと思うのとはまた違う感じ方のように思えた。



「アカリさんは、チハヤのこと好きなの?」


注文を聞くためのメモ用紙を両手で握りしめながら、マイは言った。

彼女の声がわずかに震えていた。



「好きよ。」


わたしは思ったとおりのことを言葉にした。

けれど、わたしの口の中から転がり出た好きは、マイの好きという言葉とは違う言葉のように聞こえた。

そう感じてしまったから、わたしはひとつ瞬きをした後、マイを見つめながら、ゆっくりと言葉を切った。



「・・・・。だけど、マイの言う好きではないわ。」


薄青色の瞳を伏せていたマイは、一瞬弾かれたかのように顔をあげた。

ぱちぱちと、睫を上下に繰り返し揺らす眼が愛らしいと思った。



「本当に?」

「うん。」


「じゃあ、アカリさん。どうして、チハヤを家に呼んだりするの?」


真剣な瞳だった。それは、恋する女の子にしか作り出せない不思議なまなざしだった。

その中には、喜びも苦しみも愛情も、憎しみもすべて閉じ込められているように思えた。


やっぱり、あの日、見られてたんだな、っと私が一瞬思うようも、そのまなざしの印象は強かった。




「・・・もう、しないでほしいの。自分勝手だって分かってる。けど私、本当にチハヤのことが好きなの。だから、」

「マイ。おしゃべりしてないで!いそがしいんだから!」


マイが小さく驚いて、コールさんの方を見た。

わたしも辺りを軽く見渡したら、お昼時が近づいてきたため人影が増えていた。



「ごめんなさい。、勝手な話ばかりしちゃって・・・。ご注文をどうぞ。」



「え、っと。・・・パスタのランチをお願い。」

「はい、かしこまりました。」



なんだか、呆然としてしまった。

わたしの心の中は、ひどい台風がきた後みたいだった。



それから、いつものようにおいしそうなにおいと共に運ばれてきたランチを食べて、

いつものようにお会計を済ませて、キルシュ亭を出た。


午後の仕事がまだ残ってる。

わたしは牧場に戻る道を辿りながら、なんだかひどくやるせない気持ちでいっぱいになった。


チハヤの姿を今日は見ていない。

いつも軽く調理場の方に顔を出すのだけど、今日はそんな心の暇なんてなかった。




マイの強いまなざしと、チハヤを好きだと言った声が、いつまでもわたしの頭から離れなかった。






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